大判例

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仙台高等裁判所 昭和25年(ラ)15号 決定

一、当事者

抗告人 甲野太郎

同 甲野一郎

右両名代理人弁護士 森信一

相手方 甲野花子

二、主  文

本件抗告を棄却する。

三、理  由

抗告人等の本件抗告の要旨は

(一)  昭和二十四年十月十九日抗告人甲野一郎が甲野花子を相手方として山形家庭裁判所米沢支部に離婚の調停申立をしたところ、同年十二月十六日同裁判所は調停委員会を開いた結果、申立人一郎および相手方花子列席の上

第一条 申立人と相手方を離婚する

第二条 申立人は相手方に対し療養費および慰藉料として金三万七千円を支払うこととし、内金一万七千円を昭和二十五年一月末日限り残金は昭和二十五年六月末日限り、夫々支払すること

第三条 調停費用は各自負担のこと

なる趣旨の調停条項の下に調停が成立した。而して右調停は即日家事審判官の認可あり、申立人も調停調書の謄本の下付を受けたり、又正本の送達を受けたりして、最近まで何等の疑もなかつた。のみならず一件記録に徴するも、当事者および関係係官員列席の上行われたことになつており、何等調停調書並びに調停申立書、その他調停資料書類の間に矛盾齟齬するところはない。然るに原審裁判所は、昭和二十五年七月二十一日突然抗告人甲野太郎が申立参加人として、右調停に参加し且つ調停申立人甲野一郎と連帯して相手方甲野花子に対し金三万七千円の支払義務を負うた如くに調停調書を更正せられたが、凡そ一旦成立した調停調書の更正が許される場合は、調書に違算、書損その他之に類する明白なる誤謬ある場合に限られ、その明白なる誤謬とは、その調書の全趣旨、その基本たる調停資料、調書文面の前後の関係調停の経過調書の記載、算数上等諸般の事情を綜合し、その誤謬が判然たること何人が見ても明白なるを要することは更正決定につき民事訴訟法第一九四条が準用せられ、同条の解釈として大正十三年八月二日大審院の判示(大審院民事判例集第三卷第一一号四六六頁参照)するところをみるも明瞭である。これを本件事案について見るに、一件記録上抗告人甲野太郎が右事件につき申立参加人として参加した跡は少しもなく、又本人自身亦斯る資格において調停に列席したり、或いは又連帯債務負担の申出又は承認の意思表示をしたことは全くなく、もしこれありしよう調停委員会が解せられたとせば、そは全く一方的誤解に基くものと思料せられ、抗告人としては迷惑の甚しきものである。何れにしても抗告人甲野太郎は、本件調停事件については全く無関係の第三者的立場にあつた事実は、調停申立書、調停調書等本件調停に関する一切の資料を見ても明瞭であり、従つて本件は調書に違算、書損等がある場合でないことは勿論、その他、之に類する明白なる誤謬がある場合でもないことは論ずるまでもない。果して然らば、右原審の調停調書の更正決定が違法なることは誠に明白である。

(二)  本件更正決定をみるに、原審山形家庭裁判所米沢支部家事審判官岡本二郎単独にて之をなしている。然しながら本件家事審判事件は家事審判官および調停委員の合議体で調停が試みられ、その成立した調停条項を調書に取られたことは、記録上明白であり、右家事審判官が単独に之をなしたものではない。果して然らば仮りに原審裁判所のいうが如き誤謬あるとするも、之が更正決定は、右調停委員会でなすべきものであつて、原審家事審判官が単独で之をなすべきものではない。よつて本件更正決定は違法不当のものである。

(三)  しかのみならず、元来調停は当事者双方の諒解が円満に成立することを本旨とするものであるから、万一一旦成立した調停調書に仮りに明白な著しい誤謬がありとするも、之が更正は当事者諒解の下にすべきものであつて、本件につき之をみるに右更正は何等抗告人の意見をも徴せず独断的になされたものであるから、調停の本旨即ち家事審判法の精神に反する違法乃至不当のものである。

以上何れの点においても原決定は取消さるべきものであるというにある。

よつて按ずるに

(一)  一件記録によれば、抗告人甲野一郎が甲野花子を相手方として昭和二十四年十月二十二日山形家庭裁判所米沢支部に申立てた離婚調停の申立事件につき、同年十二月十六日抗告人主張のような調停調書が作成せられ、次いで昭和二十五年七月二十一日同支部家事審判官岡本二郎において、抗告人主張のような更正決定をしたことが明らかである。而して右調停期日昭和二十四年十二月十六日の調書をみるに、同日同支部において家事審判官岡本二郎、調停委員塚田仁一外一名列席の上申立人(抗告人)甲野一郎、利害関係人(抗告人)甲野太郎、相手方甲野花子、申立(抗告)代理人森信一(但し申立代理人は中途にて退席した)各出頭したこと、相手方は申立人および代理人の申立の趣旨並びに実情の要旨の陳述に対して右事実は争うけれども、離婚には必ずしも反対しないと答え、且つ利害関係人として申立人の父甲野太郎の参加を求め、同人が申立人と連帯して相手方に対し金五万円の慰藉料および医療費の支払を求めたところ、申立人および利害関係人甲野太郎は連帯して相手方に対し相当額の慰藉料および医療費を支払うことは異存がない旨を答えたこと、調停委員会は当事者および利害関係人に対し調停を試みたところ、申立人並びに利害関係人と相手方間に別紙調書のとおり調停が成立した旨の記載があり、これと前記調停調書の記載とを対照してみれば、右調停期日に抗告人甲野太郎は利害関係人として右調停事件に参加し、申立人たる抗告人甲野一郎と連帯して相手方甲野花子に対し前記調停調書記載の金員を支払う旨の調停が成立したことを認めるに十分である。

されば、前記調停調書には明白な誤謬があるものということができるからして、前記更正決定が違法であるとする抗告人の主張は採用できない。

(二)  調停調書に明白な誤謬の存する場合には、その調停が調停委員会によつて成立した場合でも、裁判所が更正決定をすべきである。されば山形家庭裁判所米沢支部家事審判官岡本二郎においてした本件更正決定は何等違法ではない。

(三)  調停調書の記載に明白な誤謬がある場合、これを更正するにつき当事者の諒解を得たり、その意見を徴したりすることを要するものではない。

以上の次第で、原決定は相当であつて本件抗告は理由がないから、民事訴訟法第四一四条、第三八四条に則り主文のとおり決定する。

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